選択に溢れる社会づくりの中で、“産む可能性”について“知る”
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女性たちがライフステージの中で仕事、結婚、出産のいずれも諦めない“仕事が当たり前に続けられる社会の創造”を目指すNPO法人Arrow Arrow(アローアロー )では、“女性が仕事を当たり前に続けられる企業”を増やすために、企業に対しての産育休取得のコンサルティング、女性社員活用研修、ママインターンプロジェクトを行っています。今回はご自身も一児の母である代表の堀江由香里さんにお話を伺いました。
女性の人生設計にあわせてキャリアを選択できる社会をつくる
― 本日はありがとうございます。まずNPO法人ArrowArrowについてお聞かせください
堀江 私はまず人材業界に就職して人事部からキャリアをスタートさせました。その後、事業とビジョンがリンクしている組織の中で働いてみたいという気持ちが強くなったので病児保育を実施している認定NPO法人フローレンスに転職しました。そこでワークライフバランスのコンサルティングや病児保育の事業部長を経験し、2010年に独立しました。法人格にしたのは2011年です。
独立を決めたのは大学時代です。私は就職氷河期の世代なのですが、私の親友が努力して第一志望の企業から内定を受けたのに、「子育てと仕事の両立が難しそうだから」という理由で辞退したのです。この原体験がきっかけとなって、そうした心配のない組織を作りたいと思うようになりました。
事業のビジョンは“選択肢の溢れる社会をつくる”というもので、仕事と子育ての両立が難しいと思っている人たちに向けたコンサルティングや研修を行っています。4年程前からは子育て期の女性の再就職支援事業(ママインターン事業)も行っています。就業の継続も再就職も自分の人生設計に合わせてキャリアが選択できるような社会に少しでも寄与できるようにと活動しています。特に中小事業では女性の復職や育児をしながら活躍するという働き方がすごく難しいので、中小企業で育休を取得したい女性と、取得させたい企業の間にはいってコンサルティングを行っています。女性が両立に困りそうなタイミングに私たちが入ることでサポートしたいというのがArrowArrowの最初の思いです。
― 法人を立ち上げられていく中でご自身の結婚やご出産はどのようなタイミングでしたか?
堀江 実は結婚と独立を同じ年にしています。だから盆と正月が一度にきた感じで、あんまり記憶にないんです(笑)。夫も男性の育児参画をうながすようなNPOを運営しておりまして、こちらも登記が同じ年なのです。
不妊が分かるまでにかかった3年間
― お子さんは希望に近いタイミングでしたか?
堀江 全然。私は不妊治療をしていました。2010年に結婚して、最初の1年くらいは「お互い独立したばっかりだしまだいいよね」と思っていたんです。話が若干前後するのですが、新卒の頃、始発から終電まで死ぬほど働いていたら、ホルモンバランスを崩してしまったことがあるんです。当時の私にはまったく知識がなくて、生理が止まっても、「同期の男の子たちと同じだけ働けるわ」としか思わなかったんですよね。楽だなと思って、ずっと放っておいた自覚があったので、結婚してから、若干不安はありました。しばらくして子どもを作ろうかと思った時になかなかできない。検査にも行ったのですが、当時29歳くらいだったのでお医者さんもあまり本気で取り合ってくれない。原因も分からないし問題もないというので様子をみていたのですが、3年できなくて。ここでようやく不妊専門のクリニックに行きはじめて4つ目のクリニックでやっと卵管閉鎖(炎症などにより卵管が閉鎖している状態のこと)だということがわかって。それが30代のはじめでした。
不妊の検査として通水(卵管の通りを確認するために生理食塩水を通す検査のこと)はしていたのですが、その時にはわかりませんでした。通水に問題がないと判断されていたので、卵管造影をしていなかったんです。最終的に卵管造影をしたら、卵管閉鎖がわかって、これだと自然妊娠は難しいのですぐ治療しましょうということになりました。正直なところ、それを聞いてこの2、3年なんだったんだろうと思いましたね。
不妊治療のスタートと事業の継続
― 事業の方はどのようにされていましたか?
堀江 その頃ようやく自分が120%事業に打ち込んでなんとか食べていけるかどうか、というところまでお仕事いただけるようになってきたところでした。そのタイミングで不妊治療をするか相当悩みました。子どもが欲しかったので、またいつか自分で事業をやればいいから1回止めようと思って、周りに話をしたら、「もう君だけの組織じゃないんだから、自分1人が動けないからって組織がダメになると思うのはおかしい」と、当時のチームの人たちがいってくれました。それでメンバーにある程度権限を任せて、自分も何とか治療しながら事業を続けて、半年くらい本格治療をして子どもを授かることができました。
― 治療はどのようなものでしたか?
堀江 私の場合は卵管閉鎖だったので、人工授精は3回しかやりません、と言われていましたが3回目の人工授精で妊娠しました。卵子が大きくなるタイミングを計るために毎日病院に通いました。本当に不思議だなと思うのですが、ストレスとか溜まるとほんと普通に3、4日遅れたりするんですよね。それで、6時間待ったのに、今日はまだ大きくなってないので、明日来てくださいということもざらにあって……。
今思い出してもため息がでるくらい、いつ終わるかわからないことへの不安はありました。私がそうしている間にみんなが頑張ってくれているんだと思うと、ひとり診察室で何をやっているんだろうと思うこともありました。それまで仕事では頑張れば頑張るほど成果を出せていたはずなのに、今回はそうではない。今だから人生の経験としてよかったと思えますが、当時はそんな風に全く思えなくてしんどいなぁ、と感じていました。
― お仕事へはどんな風に戻られましたか?
堀江 事業では、私の権限をずっと頑張ってくれていたメンバーに共同代表のような形で意思決定も含めて委譲していました。産後2ヶ月過ぎくらいから、財務の仕事など在宅でできる仕事だけを私が引き継ぎましたが、面白いことに、そのメンバーも次の年の3月に出産したんです。ですから、産後2ヶ月過ぎで私がスイッチして、その後はメンバーが
産休にはいるみたいな感じだったんですよね。
“やらないことを決める”ようになった産後の働き方
― お子さんが生まれて働き方は変わりましたか?
堀江 働き方で一番変わったことは、“やらないことを決める”ということがすごく多くなった気がします。“何をやりたいか”より、“何をしないかを決める”。ですから、メンバーに対しても“それは本当に必要なのか”とか、“それはやらなくていい”というジャッジの方が増えてきたような気がします。自分の限られた時間の中で、どれだけ成果を出せるかということをすごく意識するようになりました。それまで生産性の高い仕事していたつもりでしたが、めちゃめちゃ仕事をしていたなと思いました。無駄な時間も多かったですし。そこはすごく大きい変化だったかなと思います。
“産む”可能性のために必要な“知る”
― いまの活躍する世代の女性たちに伝えられたいことはありますか?
堀江 私は「知らなかった」ということをすごく後悔しています。知った上で同じ道を選んでいたら後悔しなかったと思うんですけど。知らぬまま選択していてこうなったことに対して、あの時何かできていたことがあったんじゃないのかな、と思います。ですから、今の自分に何が必要なのかとか、どういう状況が起きているのかみたいなことを知ることが大事だと思います。身近な人と話すのですが、“産まないための保健体育”みたいなのものはあるのに、“産むための保健体育”は一切ないですよね。そういうことを意識して知った上で“産む”という可能性も知って選択していかないと、後悔することもある。だから、すごく敏感になってほしいなと思いますね。
― 最後に、ArrowArrowの今後の抱負についてお聞かせください
堀江 すごく大きな目標でいうと、娘が大きくなったときに、私が感じたような葛藤を感じさせない社会にするというものがあります。そのためには、ママインターンをはじめ、自分が実施している事業がもっと拡大してかなきゃいけないと思っています。私のモチベーションは自分の団体が大きくなることよりも、「誰に貢献できているか」という方が強いので、いろんな地域で取り組みたいという人たちにノウハウを伝えていって、ママインターンという市場ができていくとか、女性が活躍できるっていう環境を社会として形成していくということに力を入れてやっていきたいと思います。
堀江由香里(ほりえ ゆかり)
1982年生まれ。
2010年7月 ArrowArrow設立。
2010年9月 内閣府地域社会雇用創造事業 ソーシャルビジネスエコシステム創出プロジェクト 『ソーシャルベンチャースタートアップマーケット』 第1期生
2010年12月 NPO法人ETIC.協力 『イノベーショングラント』 第5期フェロー
2011年9月 NPO法人ETIC.協力『社会起業塾イニシアティブ』2012年花王枠 選出
2012年3月 国分寺市子育て・子育ちいきいき計画推進協議会委員 選出
2012年9月 全国商工会議所主催『第11回女性起業家大賞』スタートアップ部門(創業5年未満)審査委員会委員長賞(特別賞)受賞
2012年10月 ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京 2012年度投資・協働先選出